ARとは?定義・技術の仕組み・VR/MRとの違い・ビジネス事例などを解説
ARとは「Augmented Reality」の略称で日本語で「拡張現実」と呼ぶ、現実の世界にデジタル情報を重ね合わせて表示する技術です。
本記事では、ARの定義から技術の仕組み、VR/MRとの違い、実際に社会でどのように活用されているのかなどを詳しく解説します。
- 1. ARとは?
- 2. ARの歴史
- 3. AR技術の仕組み
- 3.1. カメラやセンサー情報から現実世界の認識
- 3.2. デジタル情報の生成と付与
- 3.3. 画面上で2の情報を正しく表示する
- 4. AR体験方法の分類|WebAR・ARアプリ
- 4.1. WebAR
- 4.2. ARアプリ
- 5. ARを体験するために必要なデバイス
- 5.1. スマートフォン・タブレット
- 5.2. ARグラス(スマートグラス)
- 5.3. ヘッドアップディスプレイ(HUD)
- 6. ARとVR/MRの違い
- 6.1. AR開発の相談窓口
- 7. ARのビジネス利用の最新事例
- 7.1. 小売・EC業界:家具のAR配置やファッション・アパレルのAR試着など
- 7.2. 医療業界
- 7.3. 製造業界
- 8. WebARやARアプリの開発手法
- 8.1. WebARの開発手法
- 8.2. ARアプリの開発手法
- 9. ARの未来の展望と課題:これからの技術進化とビジネスへの影響
ARとは?
ARとは、現実の世界にデジタル情報を重ねることによって、新しい価値や利便性を提供するための技術です。
例えば、スマートフォンで街中を撮影すると、画面上に飲食店や観光スポットの情報が表示されるアプリなどはARの代表的なものです。
また、AR技術を活用したもので一番有名なのは「ポケモンGO」で、2016年にGPSを活用した位置情報ゲームとしてリリースされ、世界的なヒットとなりました。
その中でポケモンをAR技術を使って現実の場所にあたかも存在するかのように表示することで、SNSの普及と相まって広く拡散され、AR技術を世界中に広め、多くの人々にARの可能性を知らしめるきっかけとなりました。
現在では、スマートフォンやタブレットだけでなく、ARのより質の高い体験を実現するための専用のARグラスなどが普及し、エンターテインメント・教育・医療・製造業などさまざまな分野でARの利用が進んでいます。
ARの歴史
ARの概念は1900年代に、オズの魔法使いで有名な劇作家のLyman Frank Baum(ライマン・フランク・ボーム)が、現実世界に創作されたデータを重ね合わせて表示する「Character Marker」という電子デバイスを考案したことが始まりとされています。
以降、小説や劇などでARの概念について語られることは増えていきましたが、技術が発達していなかったため空想の領域を出ないものでした。
そこから実際にARを実現したデバイスが出来たのが半世紀後の1968年。
Ivan Edward Sutherland(アイバン・エドワード・サザランド)がヘッドマウントディスプレイ (HMD) システム『The Sword of Damocles』を開発しました。ただし、この時代はまだまだ端末の処理能力が低く、HMD自体も非常に重かったため、天井に吊るしながらARで視聴できるのは単純な線の世界が描画されているくらいでした。
その後、1990年代ではパイロット向け訓練デバイス「Virtual Fixtures」や、レーザープリンターメンテナンス要員向けの補助システム「KARMA」などの軍事産業や自動車・航空機製造産業で主に利用されていきました。
2000年代に入るとPCの性能向上に加え携帯端末が普及し始めたことにより、AR活用が軍事・航空などの限定的な利用範囲から、一般消費者向けサービスへと利用されるようになりました。
2011年にNINTENDO社の3DSに内蔵されていた『ARゲームズ』でARという言葉が大衆に広がり、そして、2016年には、スマートフォンゲーム『ポケモンGO』の大ヒットにより、ARは世界中で大きな注目を集め、現在では様々なアプリに機能として組み込まれ、あらゆるビジネス領域での活用が進んでいます。
ちなみに、AR(拡張現実)という言葉は、1990年に世界最大の航空宇宙機器開発製造会社であるボーイングの技術者Tom Caudellによって名づけられたと言われています。
AR技術の仕組み
AR技術を実現するためには処理性能の高いCPU/GPU・コンピュータビジョン・センサー技術・3Dグラフィックス・位置情報技術などを活用します。
カメラやセンサーを通じて現実世界の情報を取得し、それをリアルタイムで解析することで、現実の風景や物体に対して正確にデジタル情報を重ねることができます。
AR技術の基本的なステップは以下の3ステップです。
- カメラやセンサー情報から現実世界の認識
- デジタル情報の生成と付与
- 画面上で2の情報を正しく表示する
カメラやセンサー情報から現実世界の認識
AR技術の最初のステップは、現実世界を正確に認識することです。
これには、カメラや各種センサー(GPS、加速度センサー、ジャイロスコープなど)が重要な役割を果たします。
カメラはユーザーが見ている現実の映像を取得し、センサーはデバイスの位置や動きを検知します。
これにより、ARアプリはユーザーが今いる場所、向いている方向、周囲の状況をリアルタイムで把握し、デジタル情報を現実世界に重ねる準備を行います。
場所合わせにはARマーカーなどを使う場合もありますし、画像認識で顔や人間を認識する、という手法もあります。
※参考記事:ARマーカーとは?種類や作り方からアプリ開発までの徹底解説
デジタル情報の生成と付与
次のステップは、現実世界に付加するデジタル情報の生成です。
現実の風景や物体のデータを元に、必要な情報(3Dオブジェクト、テキスト、グラフィックスなど)をリアルタイムで作成します。
このプロセスには、コンピュータビジョンや3Dレンダリング技術が使用され、現実の環境に対して自然にデジタル情報が重ね合わされるように最適化されます。
例えば、ARアプリは現実の壁の上に仮想のポスターを表示したり、テーブルの上に仮想のオブジェクトを置くといった形で、視覚的な要素を作り出します。
画面上で2の情報を正しく表示する
最後に、生成されたデジタル情報をユーザーに正しく表示する工程が必要です。
デバイスのディスプレイ上で、現実世界の映像に対してデジタルオブジェクトや情報を正確に重ねて表示することで、AR体験が完成します。
ここでは、カメラやセンサーから得たデータを元に、ユーザーの視点や位置に合わせて、デジタル情報が動的に調整されます。
このプロセスにより、ユーザーは現実の風景と仮想の情報が一体化したスムーズな体験を得ることができます。
AR体験方法の分類|WebAR・ARアプリ
AR体験の方法は、主にWebARとARアプリ(ネイティブアプリ)に分類されます。
WebAR
WebARは専用アプリを必要とせず、ウェブブラウザ上でAR体験ができる技術です。
WebARは体験までの手軽さが魅力で、ユーザーはアプリをインストールせずにURLを開くだけでARコンテンツを体験できます。
しかし、ARアプリと比べると、表現力やインタラクティブ性には制約があることが多いです。
※参考記事:【WebARとは?】ARアプリとの違いやビジネスでの活用事例を解説!
ARアプリ
ARアプリは、専用のアプリをインストールして使用する形式で、より高度な機能と高品質なグラフィックスを提供できます。
ゲームや商品デモ、教育アプリケーションなどで利用されることが多く、ユーザー体験のクオリティが高いことが特徴です。
どちらの用途に応じた選択が重要で、WebARは手軽さを、アプリARは体験のリッチさを重視する場面で効果を発揮します。
※参考記事:【ARアプリとは何か?】WebARとの違いやおすすめアプリ、開発ツールなどを紹介!
ARを体験するために必要なデバイス
AR(拡張現実)を体験するためにはスマートフォンやARグラスなどのデバイスが必要です。
以下は、ARを体験できる主なデバイスの種類です。
スマートフォン・タブレット
スマートフォンやタブレットはカメラ、GPS、ジャイロスコープ、加速度センサーなどを搭載しており、ARアプリを通じて現実世界にデジタル情報を重ねて表示できます。
特にiPhoneやAndroidスマートフォンは、専用アプリをインストールするだけで手軽にARを体験できるため、エンターテインメントやショッピング、教育など幅広い分野で活用されています。
ARグラス(スマートグラス)
ARグラスやスマートグラスは、AR体験をより没入感のあるものにするデバイスです。
これらのグラスを着用すると、現実の視界にデジタル情報を直接重ねて表示でき、ハンズフリーでAR体験ができるため、ビジネスシーンでの活用も広がってきています。
代表的な製品にはMicrosoft HoloLens 2やXREAL Air 2があります。
これらのデバイスは、エンタープライズ分野や医療、製造業などで利用されており、作業現場での指示や手順の表示、遠隔支援などに活用されています。
※参考記事:【2024年最新】Appleの最新デバイスも紹介|注目のARグラス・スマートグラス・MRデバイス18選
ヘッドアップディスプレイ(HUD)
ARは自動車にも使われており、代表的なのはヘッドアップディスプレイです。
主に自動車に搭載され、運転中にフロントガラスに情報を表示するデバイスで、ドライバーは視線を前方に保ったまま、ナビゲーション情報や速度、障害物の警告などを確認でき、運転の安全性が向上します。
AR技術を活用したHUDは、運転支援システムの一部として、自動車業界で広く導入されています。
ARとVR/MRの違い
ARはVRやMRと似た概念で混同されがちですが、それぞれ異なる特性を持つ技術です。
これらの区別のためには、現実と仮想の比率をイメージすると理解しやすいです。
例えばVRは専用のヘッドセットを装着することで、360度の仮想環境に入り込み現実世界とは異なる体験を楽しむことができる技術なので、現実:仮想=0:10と言えます。
一方でARは視界に文字情報や2D映像を重ね合わせる程度なので現実:仮想=8:2くらいのイメージです。
つまり、VRは基本的にはバーチャルをベースにしており、ARの現実世界をベースにしていてバーチャルを付与する、という点で大きな違いです。
一方でMRはARと似ているのですが、一般的にはMRの方が仮想の情報量が大きいと言われるので、現実:仮想=5:5くらいのイメージです。
まとめると、現実の比率が多い場合はAR、仮想だけをVR、それ以外をざっくりMRと呼ぶことが多いです。
※参考記事:VRとは何か?仮想現実の仕組みと活用事例を徹底解説
AR開発の相談窓口
当メディア運営元・株式会社ForgersはNTTドコモやニトリをはじめ、多数の大手企業のAR/VR開発や導入を支援しています。
WebARやARアプリの開発や、最適なARデバイスの選定のご提案もできます。
また、自動車部品のグローバルサプライヤー・アイシン社に、3D/デジタルマニュアルソリューション「RITTAI MANUAL」を提供するなど、製造業向けの支援も行っています。
少しでも気になる方は、無料で相談承っておりますのでぜひご相談ください。
ARのビジネス利用の最新事例
ARはスマホやARグラスの普及に伴い、ビジネスにおいても広く利用され、革新的な技術として注目を集めています。
代表的な事例をいくつかご紹介します。
※参考記事:【2024年最新】業界別AR/MRのビジネス活用事例14選と導入効果を徹底解説
小売・EC業界:家具のAR配置やファッション・アパレルのAR試着など
小売・EC業界では、主にオンラインショッピングの販促施策として大きく2つの領域(家具・ファッション)でARが活用されています。
従来オンラインストアでは「事前に試着すること」や「サイズを事前に確認すること」が難しかったですが、ARを導入することで
- ファッション・アパレルのAR試着:自身にフィットするか事前に確認できる
- 家具のAR試し置き:自宅にサイズが合うか確認できる
といったことが可能になりました。
3D・VR/AR開発スタートアップ・株式会社Forgersは「RITTAI」という顧客が自宅で家具を仮想的に配置して試せるコマース向けのサービスを提供しており、すでにニトリ・ニッセン・イトーキといった大手企業から中小企業まで幅広い企業のECやカタログに導入されています。
これにより、ユーザーは購入前に家具のサイズや色合いが自宅に合うか確認できるため、安心して購入することができます。
導入企業はECの売上の向上や返品率の削減・コストカットを実現できるでしょう。
※参考記事:ニトリも導入!ARで家具配置シミュレーション|EC・店舗での最新活用事例や導入効果
医療業界
医療業界において、AR技術は医療従事者のトレーニングや手術の支援、患者教育などに利用されています。
日本では、VR Japanと順天堂大学医学部呼吸器外科が、ARを用いた安全な「胸腔ドレーン挿入法」の共同研究を行なっています。
AR技術によって患者の胸部CTの情報をARグラスに反映させるシステム構築の研究を進めています。
これが実現すれば、体腔内を透視した状況が実現して、胸腔ドレーンの挿入の安全性が高まります。
また、NTTグループのXR企業・NTTコノキュー社は、株式会社Forgersと共に歯科業界の人手不足を解消する遠隔医療支援サービス「Project the Hands」を開発しています。
製造業界
航空機製造のエアバス社はMicrosoft HoloLens 2のARメガネを使用し、作業員が手順に沿って効率的に組み立て作業を進められるよう支援しています。
日本のトヨタは、車両の組み立てやメンテナンスを効率化するためにARを導入しており、作業者は3Dモデルを使って複雑な手順を視覚的に把握し、エラーを減らしつつ作業の正確性を向上させています。
また、3D・VR/AR開発スタートアップ・株式会社Forgersは、製造業界向けの3D・デジタルマニュアルサービス「RITTAI MANUAL」を展開しています。
製品の組み立て・使い方・メンテナンス方法を分かりやすく表現するツールとして、営業や人材育成等に活用することができます。
そのほかの製造業界のAR/MR活用事例・導入方法に関する記事はこちら:
- 【製造業・工場のAR/MR/VR活用事例】メリットや導入のポイントを解説
- 製造業・建設業のスマートグラス×遠隔支援|最新事例とメーカー・価格一覧
- デジタルツインによる工場のスマート化・活用事例|製造業の未来と課題とは
WebARやARアプリの開発手法
WebARやARアプリを開発する場合は、それぞれに適した開発手法を選ぶ必要があります。
WebARの開発手法
WebARの開発にはライブラリを使うか、開発プラットフォームを使うかの大きく2つの手段があります。
ライブラリの場合は、AR.jsやA-Frame、Three.jsなどがあります。
開発プラットフォームは8th wallやAmazon Sumerianなどを使って開発できます。
ユーザにとって簡単に体験できるというメリットがある一方で、WebARはブラウザの機能に依存するため、アプリと比較してカスタマイズ性や性能に制限があります。
ARアプリの開発手法
ARアプリの開発には、UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンがよく利用されます。
これらはスマホゲームの開発なども使われており、アプリ開発に適したプラグインや機能などが多数存在します。
- Unity
- 直感的なインターフェースと豊富なプラグインが揃っているゲームエンジンです。
- 特にVuforiaやAR FoundationなどのAR開発用ツールキットと組み合わせることで、開発者は容易にARコンテンツを作成できます。
- Unreal Engine
- リアルなグラフィックス表現に強みがあり、高品質なビジュアルが要求されるARプロジェクトに適しています。特に大規模なARシミュレーションやインタラクティブな体験を提供したい場合、Unreal Engineはその性能を発揮します。
※参考記事:VR/メタバース開発に必要なツール・技術・費用感などを徹底解説!【Unity・Unreal Engineなど】
ARの未来の展望と課題:これからの技術進化とビジネスへの影響
AR技術はまだまだ進化の途中にありますが、既に多くの現場で導入されてきているテクノロジーです。
市場調査によると、AR市場は2023年から2027年にかけて年平均30%以上の成長が見込まれており、特に製造業、医療、エンターテインメントの分野で大きな需要が予測されています。
現状多くの企業が抱えている課題を、最先端のARを駆使して解決していきましょう。